
採用活動が思うように進まないとき、「なぜ失敗しているのか」「どこから手を打つべきか」が明確になっていないことがよくあります。そんなときに有効なのが、採用プロセスを論理的に分解する「ロジックツリー」の活用です。
ロジックツリーは課題の構造を可視化し、思考の抜け漏れや偏りを防ぐフレームワークとして知られています。
本記事では、採用活動におけるロジックツリーの使い方と、運用する上で不可欠となる“採用の軸”をどう作るか、そのためにインナーブランディングがなぜ必要なのかを解説します。
採用にロジックツリーを使うと、課題と解決策が明確になります
採用がうまくいかない理由は、一つではありません。母集団形成、選考精度、ミスマッチ、定着率など、さまざまな要素が絡み合っています。
こうした複雑な課題を整理するのに有効なのが、ロジックツリーです。
ロジックツリーとは?採用活動に応用する意義
ロジックツリーは、問題や目標を「なぜ」「どうやって」と段階的に分解していく思考フレームワークです。採用活動においては、「採用がうまくいかない」という課題に対して、「応募数が足りない」「面接辞退が多い」「内定辞退が多い」など原因を階層的に整理できます。
可視化された構造をもとに、打ち手の優先順位を考えやすくなるため、属人的な判断から脱却でき、戦略的な改善につながります。
採用課題の構造を可視化することで、打ち手に一貫性が出る
ロジックツリーを使えば、採用の各プロセスで発生している問題が全体構造のどこに位置しているかが一目でわかります。たとえば、「定着率が低い」という課題が「カルチャーフィット不足」からきていると整理できれば、面接質問や評価基準の見直しが打ち手として導き出されます。
このように、ツリーによって原因と対策が論理的につながることで、場当たり的ではない一貫性のある採用施策が打てるようになります。
「なんとなくやっている採用」から脱却できる
多くの企業で、採用活動は「前任者がやっていたから」「他社がやっているから」といった慣習や経験則で行われています。ロジックツリーを用いれば、その場しのぎの判断から脱却し、構造的に「何をすべきか」が見えてきます。
とくに採用に関わるメンバーが多い企業では、ロジックツリーが共通言語となり、意思決定や会話の質が上がる効果も期待できます。
ロジックツリーは“採用の軸”があってこそ機能します
ロジックツリーは課題の構造を整理するのに非常に有効ですが、それを実際に使いこなすには「採用の軸」が不可欠です。
軸がなければ、整理した情報に優先順位をつけたり、適切な打ち手を選んだりすることができません。
「誰を採りたいか」が決まっていないと枝葉が増えるだけ
ロジックツリーを展開する際、「何をもって“良い採用”とするのか」が不明確だと、ツリーは枝葉ばかり増えて実効性を失います。たとえば、「応募数を増やすべきか」「辞退率を下げるべきか」の判断も、採用ターゲット像が明確でないと判断できません。
ツリーを効果的に使うには、「自社にとっての理想の人材像」が土台になっている必要があります。
採用ターゲットや評価基準と連動していないと形骸化する
ロジックツリーで課題を整理しても、それを評価基準や選考内容に落とし込めていなければ、ツリーは“見た目だけの資料”になってしまいます。
たとえば、「カルチャーフィットが足りない」という問題が特定できても、実際の面接でそれを評価する項目がなければ意味がありません。ロジックと現場が連動して初めて、改善施策として機能します。
採用軸の明確化には、インナーブランディングが必要です
採用の軸は自然には生まれません。現場・人事・経営層それぞれが異なる“良い人材像”を持っていることも多く、それが混在したままでは、ツリーの運用にも一貫性が出ません。
採用の軸を定めるには、企業としての価値観を見直し、言語化し、全社で共有するプロセスが必要です。
現場・人事・経営層で「いい人材像」が一致しているか
ロジックツリーの前提となる「何を目指すのか」が社内で共有されていなければ、いくら精緻な分解をしても方向性がバラバラになります。
経営層は将来性、現場は即戦力、人事は文化適応性を重視するなど、立場によって“良い人材”の定義がズレていることは珍しくありません。このギャップを埋める作業がなければ、ロジックツリーは機能しません。
選考でブレないために“価値観の言語化”が不可欠
採用の判断を論理的に一貫させるには、「私たちの会社は、どんな価値観を大事にしているのか」を言語化し、それに沿った評価軸を設ける必要があります。
たとえば、「自走できる人がほしい」と言うだけでは抽象的すぎるため、「どんな行動・発言でそれを判断するか」まで具体化する必要があります。これにより、選考に関わるすべての人の評価が揃いやすくなります。
企業文化に基づいた判断軸があると、ツリーの運用が容易になる
採用の軸が明文化されていれば、ロジックツリーの作成も迷いなく進められます。「この課題は自社にとって本質的な問題か?」「それはどの価値観に反しているのか?」といった問いを立てながら構造化できるため、表面的な原因分析にとどまらず、戦略的な人材戦略へとつながっていきます。
ロジックツリーを使って“選ばれる採用”へ進化させる
ロジックツリーは、採用課題の構造を明らかにする優れたツールです。しかし、それを最大限に活かすには、明確な採用軸と、それを支えるインナーブランディングが不可欠です。
組織として「誰を、なぜ採るのか」「何を評価するのか」が共有されていれば、ロジックツリーは単なる分析ツールではなく、採用戦略そのものの設計図になります。感覚に頼らない採用の仕組み化が、企業の信頼性や候補者からの評価を高め、結果的に“選ばれる企業”につながります。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)