インナーブランディングは企業文化の浸透を目指す強力な手段ですが、誤った実施は従業員のモチベーション低下や内部の抵抗を生むリスクもはらみます。
「管理層と従業員のギャップ」「低モチベーションが生産性に及ぼす影響」を踏まえた上で、「内部抵抗の形成要因」を理解し、「モチベーション低下に対する具体的な対策」や「コミュニケーション改善のための施策」を講じることが求められます。
この記事では、そうしたデメリットに焦点を当て、それらを克服する方法を探求していきましょう。
モチベーションの低下を引き起こす可能性
インナーブランディングは、企業内で共有される価値観や行動規範を従業員に浸透させる戦略ですが、その過程でモチベーションの低下というデメリットがあらわれることがあります。
この問題は決して軽視できるものではなく、組織の成長や競争力の維持にとって大きなハードルとなるでしょう。この低下はさまざまな因子によって引き起こされるため、根本的な解決を目指す必要があります。
管理層と従業員のギャップ
インナーブランディングにおいて、管理層と従業員間に生じるギャップは、従業員のモチベーション低下につながる大きな要因です。管理層が推進するブランディングの理念や価値観が、従業員にちゃんと伝わらない場合もあります。
その結果、従業員は方向性を見失い、日々の業務への意欲を低下させる可能性があります。
また、上層部の意向と現場の実態の乖離が大きいと、従業員は自らの努力が評価されないと感じることが増え、さらにモチベーションは低下してしまいます。これに対し、管理層は従業員の声にしっかり耳を傾け、一緒にブランドを作り上げるという姿勢が求められます。
低モチベーションが生産性に及ぼす影響
従業員のモチベーションが低くなると、それは直接的に業務の効率や成果に影響を及ぼします。やる気が起こらない状態では、通常時よりも時間がかかってしまったり、クオリティの低下を招いたりすることがあります。
さらに、チーム内で個々のモチベーションが低いと、その雰囲気が伝播し、組織全体の生産性の低下を招くことにもなりかねません。
そのため、モチベーションの回復と維持は、企業が持続的成長を実現するためにも極めて重要な課題といえるでしょう。このような問題に対処するためにも、インナーブランディングにおいては、従業員のモチベーションを維持・向上する方法に注力していくことが不可欠です。
内部の抵抗による分断
インナーブランディングを作り上げる過程で、組織内部における抵抗による問題と対峙することは避けられません。新たなブランド価値や文化に対してすべての従業員が一様に受け入れるとは限らず、意見の不一致や価値観の対立が生じることがあります。
こうした内部抵抗があると、組織の一体感が損なわれ、最終的には企業のパフォーマンスにも影響を及ぼすことになるのです。
内部抵抗の形成要因
組織における内部抵抗は、さまざまな要因から形成されるものです。
一例として、従業員の価値観と企業の提唱するブランド価値との間に隔たりがある場合、それぞれの従業員は自己の信念を守ろうとします。また、変化に対する恐れやセキュリティの喪失感も内部抵抗の要因となりえます。
変化に伴う不確実性は、人々に不安を与え、変化を拒絶する心理を働かせます。
さらに、新しい方針やプロセスの導入により、業務の習熟度が低下し、成果への影響を恐れることも、抵抗の背景にあるのです。これらは僅かな例に過ぎませんが、組織が抵抗を理解し、適切に対応するためには、これらの要因をきちんと把握し、分析することが重要です。
抵抗への対応と和解のプロセス
内部の抵抗に効果的に対処し、組織内の和解を促進するためには、コミュニケーションの強化が不可欠です。
まず、従業員が抱える懸念を真摯に聞く姿勢を示すことが、信頼関係の構築に寄与します。次に、インナーブランディングの目的や恩恵について透明性をもって説明し、従業員に理解を求めることが必要です。
さらに、従業員がブランド価値に対する意味を見いだせるよう、個々の貢献と企業の目標とを紐づける取り組みも重要です。トレーニングやワークショップを通じて、知識やスキルの向上を促し、変化に対する自信をつけさせる努力も欠かせません。
ステークホルダー一人ひとりの参加と意見を尊重する文化を育んでいくことで、抵抗を和解に変え、組織全体の強固な結束を築くことができるでしょう。
デメリットを乗り越えるための対策方法
インナーブランディングがもたらすデメリットは、適切な対策を施すことで乗り越えることができます。
しかし、そのためには正確な問題の把握とそれを解決するための具体的かつ効果的な対策が必要となります。
たとえば、モチベーション低下やコミュニケーションの不足などの問題は、組織内に長期間放置すると、最終的には企業全体の生産性や従業員の働きがいに影響を与える可能性があります。ここでは、こうしたデメリットが生じたときに企業が取り組むべき対策について、実践的な観点から深掘りしていきます。
モチベーション低下に対する具体的な対策
従業員のモチベーションを維持することは、インナーブランディング施策の成否に直結します。しかし、日々の業務の中でモチベーションが低下することも少なくありません。
そのため、企業はまず原因を特定することから始める必要があります。モチベーション低下には様々な原因がありますが、例えば、明確なキャリアパスの不在や報奨システムの不公平、職場の人間関係の問題などが挙げられます。
これらの問題を特定した上で、具体的な対策としては、目標設定の見直し、適正な評価とフィードバックの提供、社内コミュニケーションの促進、キャリア支援の充実などが考えられます。
これらの対策は、従業員が企業に対する帰属意識を持ち、自らの目標達成に向けて積極的に行動するよう促していきます。
コミュニケーション改善のための施策
企業にとってコミュニケーションは、インナーブランディングを成功に導くための核心となる要素です。コミュニケーションが不足すると、従業員は組織のビジョンや戦略を共有し、理解することができません。
そこで重要となるのが、透明性のある情報共有と、従業員の意見を耳を傾ける姿勢です。毎月の全体会議の開催や、部門間での定期的な情報交換の場の設定、社内SNSの活用などを通じてコミュニケーションを促進します。ま
た、一方通行ではなく双方向のコミュニケーションを心がけることで、従業員は自分の意見やアイデアが組織に対して価値を提供していると感じるようになります。更には、外部の専門家を招いたセミナーやワークショップの開催など、社外からの新鮮な風を取り入れることでも、従業員の視野を広げ、刺激になるでしょう。
インナーブランディング成功への道
企業のイメージを内部向けにも前面に押し出すインナーブランディングですが、その成功への道は決して容易いものではありません。
従業員一人ひとりがブランドの価値を理解し、それを体現する文化を築き上げることが必須条件となるのです。そのためには、トップから一線の従業員に至るまで、コミットメントを示すという組織の決定が必要なのです。
また、一貫したメッセージングを行い、内部におけるブランドの認識を統一することも大切な点でしょう。インナーブランディングは、社外だけでなく、社内である従業員に対してもその良さを理解してもらい、共感を生むことが大きな鍵を握ります。
社員の理解を得るための方法としては、以下の記事も参考にしてください。
深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても”光る人材”が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナー・ブランディング まず教育、そして採用、業績アップ。鉄板の好循環をつくる」(セルバ出版)。