採用ブランディング、ひいては採用活動において、企業は「応募者より企業側が偉い」という姿勢をやめなければいけません。知らずのうちにそうなっている企業がほとんどだと思います。
従来の採用では、母集団を集めて、その中から優秀な人材を選ぶという方法が主流になっていましたが、それでは自社にマッチする人材は集まりません。
今回は、「採用において企業側がどのような姿勢であるべきなのか」について解説します。
なぜ採用は企業側が選ぶ「上から目線」になってしまうのか
採用は、費用も労力もかかります。
そのため、企業側として「なるべく会社の利益になりたい人をとりたい」と考えるのは、至極自然なことです。
だから、「優秀な人材を企業側で選ぶ」という発想に陥りやすいのです。
企業側が選ぶ姿勢をやめる
従来の採用は、母集団を集めてその中から人材を選ぶ方法でした。「従来の」としましたが、今でも同じような採用を行っている企業は多いでしょう。
ただ、母集団を集めて選ぶ方法も、大手企業であれば問題はありません。また、コロナショックで買い手市場の状況のような場合は、企業側が主導権を握るという方法でも問題なかったと言えます。
しかし、中小企業や採用に苦戦している企業であれば、母集団を集めて企業側が選ぶという方法は合っていません。また、人材が少ない売り手市場になれば、選ぶのは応募者側になります。
選び選ばれる採用に終止符を打つのが採用ブランディング
上記で、企業側が選ぶ、または応募者側が選ぶという採用の構造について解説しましたが、その「選び選ばれる」構造に終止符を打つのが採用ブランディングです。
応募者は企業が掲げる「理念・価値観」が自分の働く価値観と共鳴する場合に応募し、企業側は集まってくれた応募者からより共鳴でき、活躍してくれると見込んだ人を選べるようになります。
理念共有を軸に「お互いに選び、選ばれる」採用活動が、採用ブランディングです。
「優秀」で選んでしまう採用の落とし穴
解説してきたように、企業側は「優秀かどうか」で人材を選ぼうとしてしまいます。
しかし「優秀であるかどうか」という考え方が、そもそもの間違いなのです。
以下で、なぜ「優秀かどうか」で選んではいけないのかについて、解説します。
自社にとって本当に必要なスキルを見落とす
そもそも、「優秀」の定義とはどのようなことでしょうか。ほとんどの企業は、何の資格を持っているだとか、どんな経歴があるか、などで判断するかと思います。
しかし、これらの視点で考えてしまうと、必ず他の企業とバッティングしてしまいます。バッティングした企業が大手企業であれば、応募者は大手企業を選んでしまうでしょう。
もちろん、採用をするにあたって、スキルや能力は必要です。しかし大事なのは、そのスキルが本当に必要なのか?という部分です。
例えば、TOEIC700点以上は、いわゆる「優秀」と言えます。しかし、英語スキルと必要としない業種にとって、そのスキルは重要ではありません。
自社にとって本当に必要なスキルを見極めずに、肩書だけで「優秀」を判断してしまうと、結果的にミスマッチを起こす原因になってしまうのです。
能力が発揮されない
優秀な人材が入社したとしても、その人の能力が発揮されるかどうかは、企業によります。
例えば、前職で高い能力を持っていたとしても、その能力が自社で発揮されるとは限りません。能力が発揮されるまでは、短くて半年、長ければ1年以上かかってしまうでしょう。
これは、カルチャーマッチするまでに時間がかかるからです。
能力というのは、会社の文化にはまり、知り尽くしているからこそ発揮できます。つまり、文化にマッチしなければ、能力は発揮できないのです。例えば社内での会議の際に、前職ではパワーポイントで綿密にデザインさた企画書が必要だったとします。やる気満々で、転職者がそれをつくって会議で披露しても、「その企画書をつくる労力が無駄だから、箇条書きでいいよ」と言われたら、今度はその箇条書きの精度について、体得していかなければなりません。
そこで一つ考えてみてほしいのが、「能力をとるか、文化とのマッチを考えるのか」。
能力というのは、働きながら磨けるものですから、優先すべきは文化とのマッチと言えるでしょう。
だから、優秀かどうかという視点よりも、文化に合うか合わないかで人材を選んだ方が良いのです
理念共感採用は企業側のモチベーションにも影響を与える
理念共感を軸にした採用は、企業側のモチベーションを下げないことにもつながります。
優秀かどうかだけで採用を行った場合、以下のようなネガティブな思考になってしまいやすいのです。
- 採用途中で離脱された際に「採用ができない」と落ち込む
- 「優秀な人が集まらない」という視点で見てしまう
しかし、理念共感の理解ができていれば、たとえ採用途中で離脱されても「理念に共感しない人が来てしまった」のだと、ポジティブに考えられます。
採用の姿勢を見直さなければならない
企業側は、大手企業で募集をすれば引く手あまたになるような企業でない限り「母集団から優秀な人材を選ぶ」という姿勢を改めるべきです。それが採用を難しくさせています。
解説したように、応募者側も企業を選んでいます。
ただ、あくまでどちらが上、どちらが下という話ではなく、お互いに選び、選ばれる採用が好ましいです。
この「選び、選ばれる」形にできるのが、私たちの採用ブランディングなのです。
深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランスで5度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても”光る人材”が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。