採用の手法として「採用マーケティング」があります。
企業によっては、採用ブランディングではなく、自社で採用マーケティングを行って採用力を強化しようと考えるケースもあるでしょう。
しかし、採用マーケティングのみをやろうとすると、多くの場合は失敗します。
では「なぜ採用マーケティングではなく採用ブランディングなのか?」それぞれの違いについて、私たちの観点から解説します。
採用マーケティングはプロモーション止まり
基本的に、採用マーケティングは人を介さない範疇の手法です。
プロモーションの範囲内で行われるのが、ほとんどの場合で採用マーケティングと呼ばれています。
例えば「ホームページとポスター、チラシと映像でやっていきましょう!」というプロモーション活動です。一部では採用フローの設計まで行うケースもありますが、採用フローまで行って「採用マーケティング」と呼んでいる所は、ほとんどありません。
対して、採用ブランディングは、直接接点とプロモーションの両方。これらを採用コンセプトで一気通貫することを指します。
つまり、採用ブランディングと採用マーケティングを大きく分けるなら、人的接触があるかないかという部分です。
採用マーケティングはテクニック論になりがち
採用マーケティングは、名前のとおり「マーケティング」であり、プロモーションを組み合わせたり市場の動きを見たり、他社の成功事例を参考にした上で、採用方法を策定します。
一見、成功に近づきそうな方法ではありますが、市場や成功事例を重視しすぎるあまり、結局、競合とたいして差別化にならない方法になりがちです。
よく「大手企業の採用成功事例」を参考にしてしまうケースがありますが、これは大手だからこそ、成功しているというケースが多く、中小企業がそのまま真似したところで、採用は上手くいきません。
採用ブランディングの観点から見れば、採用は、競合や市場というのはほぼ関係ありません。何百人、何千人の採用をするのであれば、市場のことを考える必要がありますが、採用で苦戦する企業のほとんどは10人〜30人の採用だからです。
他社の成功事例をいくら分析したところで、自社にあてはまるとは限りませんし、他社の真似をしたところでミスマッチが起きてしまいます。
自社らしい採用フローを行わなければ、求職者と企業のマッチング度合い深まりません。
「とりあえずやる」採用マーケティングはナンセンス
多くの会社は、なんとなくで採用マーケティングを行ってしまいます。本来、マーケティングも本質的で科学的な解決を行うものですが、日本では短期的、近視眼的なアプローチになりがちです。
とくに多いのが「採用HPが古いから作り直す」「応募効果低いからHPを作り直す」などです。
このような理由で採用マーケティング、プロモーションを見直しても、多くの場合は失敗します。
なぜなら、採用ツールの特性、目的、制作者の意図が噛み合ってないからです。
私たち採用ブランディングの視点からすれば、採用HPというのは母集団を広げるために作るのではなく、自社にマッチする人の含有率を上げるため、質を一定に揃えるために作るものです。
母集団を増やす観点で言うなら、採用HPを作るだけではなく、採用HPを露出しなければいけないので、そもそもの目的が誤っていると言えます。
採用マーケティングを自社で行えば成功するのか?
採用マーケティング自体は、熟練した人事担当が自社にいるのであれば、できないわけではありません。
しかし、ほとんどの人事担当者は、プロモーションのみに全力を注ぐのは難しいのではないでしょうか。
面接の調整や最終面接の連絡など、人事担当者の業務は多岐にわたります。
そのなかで、全体を俯瞰しながら再構築するのは難しいと言えるでしょう。
中小企業の採用マーケティング成功は難しい
中小企業においては、採用マーケティングで成功するのは難しいと言えます。
これまでの採用活動が成功しているなら別ですが「採用もできていなくて予算もない」といった状態では、適切なツールの組み合わせができません。
成功に導くツールの組み合わせというのは、成功体験がなければまず難しいです。
しかし、そのような企業においても、採用マーケティングを実施してしまうケースがあります。
その結果「ホームページにいくらの予算、イベントにいくらの予算……」と大きな費用がかかってしまうのです。
採用ブランディングは自社自体が武器になる
採用マーケティングは、主にプロモーション方法、つまりは「飛び道具を揃える」と言っても過言ではありません。
対して、採用ブランディングは、自社自体を強くする方法、自社を武器にする方法です。
自社を強くすることで何が起こるかと言うと、まず、クリエイティブが一貫されます。
採用マーケティングで映像やパンフレット、HPなどを作る場合に起きやすいのが、以下の例です。
- HP→A社へ依頼
- パンフレット→B社へ依頼
- 映像→C社へ依頼
上記の状態だと、それぞれの会社で意識の共有ができていないので、必ずズレが起こります。
対して、採用ブランディングは、チーム全員が意識や理念を理解した上で作り上げていく方法です。
そこで作った戦略をクリエイティブに落とし込んでいくので、クリエイティブにも一貫性が出ます。
一貫性が出ることで大手に勝てる
先述したように、「大手の採用事例」を真似てしまう企業は多くあります。
しかし、大手の事例というのは、その会社だからできていることです。
そもそもの知名度の違いもあれば予算のかけ方も異なるので、中小企業では再現性がありません。
もし成功したとしても、あくまで大手企業のオマージュにしか過ぎないので、この先も大手企業には勝てないでしょう。
しかし、採用ブランディングは自社ならではの強みを作る方法。つまり、大手にはない自社ならではの魅力を打ち出す方法であるため、大手にも勝てるのです。
採用に必要なのは理念共感
採用で大事なのは、自社の軸を作ることでの、応募者との理念・価値観のマッチです。
例えば、採用マーケティングにおいて「今の新卒はSDGsを意識している」「今の新卒はウェルビーイングを意識している」というデータがあったとする場合、ただ「SDGsに貢献しています」「働きやすい会社です」と打ち出すだけで採用できるかと言えば、答えはNOです。
もし採用できたとしても、ただそれだけではミスマッチを起こしてしまいますし、大手の企業で同じように「SDGsに貢献している」ということがあれば、大手企業に応募者は流れるでしょう。もちろん、SDGsと事業や理念がマッチしているのであれば、それを採用の軸に据えることで、自社の採用は一気に変わります。
だから、自社の軸を強みにした採用ブランディングが重要なのです。
採用マーケティングのみを行ってしまうと、多くの場合、失敗してしまいます。
採用マーケティングをプロモーション、採用ブランディングを自社の軸を作ると定義した場合であれば、採用ブランディングを行ってから採用マーケティングを行うというのが、適切な方法と言えます。
深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランスで5度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても”光る人材”が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。