
採用活動において、見送り通知は候補者との最後の接点です。しかし、その重要性を十分に認識していない企業も少なくありません。形式的な文面や無機質な対応は、企業の印象を大きく損なう可能性があります。
逆に言えば、見送り文面にまで“企業らしさ”や誠実さが表れていれば、それは候補者にとっての信頼感や、将来的な再接点の可能性につながります。
本記事では、採用見送りの文面を単なる断りの一文で終わらせないために、インナーブランディングの視点から考えるべきポイントを解説します。
見送り通知は“選ばなかった人”との大切な接点です
採用見送りの連絡は候補者との最後の接点。適切に対応しないと、企業の印象に大きく影響します。
まずは見送り対応の重要性を整理していきましょう。以下で、具体的に解説します。
ぞんざいな文面は企業の信頼を損なう
形式的でそっけない見送り文面は、候補者に冷たい印象を与え、企業への信頼を損なう原因になります。せっかく誠実に面接対応をしていても、最後の一言でその印象が崩れてしまうこともあります。
候補者は選考過程全体を通じて企業の文化や姿勢を感じ取っているため、最後まで丁寧に接することが求められます。
丁寧な対応は“次の接点”を生む可能性がある
一度不採用となった候補者が、将来的に別のポジションで再応募するケースは珍しくありません。丁寧な見送り対応をすることで、「また挑戦したい」と思ってもらえる土壌が生まれます。
さらに、候補者が他者に企業の印象を伝える際にも、ポジティブな評価につながることがあります。
見送りメールも広報の一部と考えるべき
見送り通知は単なる採用業務ではなく、“候補者というオーディエンス”に向けた広報活動の一つと捉えるべきです。どう断るかという行為自体が、企業の姿勢やスタンスを示すものであり、それはブランドとしての印象にも直結します。
ですから、見送りメールであって、企業としての姿勢を考慮しなければならないのです。
採用見送り文面には、企業の“スタンス”が表れます
単なるテンプレートではなく、「どんな思いで選考をしているのか」「候補者をどう見ているのか」を言葉にすることが重要です。
以下では、どのような内容が適切であるかについて解説します。具体的な例を参考にしながら、自社ならではの見送りメールの内容を検討してみましょう。
「選考理由は伝えられないが、感謝の気持ちは伝えられる」
多くの企業では詳細な選考理由を伝えない方針をとっていますが、それでも「丁寧に応募いただいたことへの感謝」は明確に伝えるべきです。
候補者がその一文に救われることもあるため、形式ではなく誠意を込めた表現が大切です。
企業として“どう接するか”を統一しておく
文面の自由度は保ちながらも、企業としてのスタンスを統一しておくことが大切です。見送り通知における語調、構成、伝え方などに一貫性があれば、候補者に安心感を与えると同時に、社内の判断基準としても活用できます。
定型文でも“らしさ”を込めることで印象は変わる
定型文を使う場合でも、企業の文化や雰囲気を反映させた表現を選ぶことで印象は大きく変わります。
たとえば、堅苦しい文章ではなく、あたたかみのある言葉を添えることで、候補者の記憶に残る企業になります。
見送り対応を通じて、企業文化を社内に浸透させる
見送り対応は外向けだけでなく、社内にも大きな影響を及ぼします。対応の姿勢は、採用観や価値観を共有する機会でもあります。
見送り対応を単一的な業務と考えずに、社内文化の浸透として捉えれば自社にとっても成長の機会となるはずです。
面接官や担当者の姿勢にバラつきがあると候補者に伝わる
見送りの伝え方が人によって異なれば、候補者は混乱し、組織としての一貫性に疑問を持たれます。特に面接から見送りまでの流れがスムーズでなければ、せっかくの信頼も失われかねません。
対応ルールを社内で整備することで判断が揃う
あらかじめ社内で対応ルールや文面のトーンを決めておけば、誰が対応しても企業としての一貫性が保たれます。これは採用ブランディングだけでなく、社内文化の共有・定着にもつながります。
対応を通じて“選ばれる組織文化”をつくる
見送り対応を丁寧に行う企業は、内外から「信頼できる組織」として認識されます。候補者に対する接し方がそのまま企業文化を体現することになり、ひいては「ここで働きたい」と思われる土台をつくることができます。
採用のすべての瞬間が、ブランドを形づくります
採用見送り文面もまた、企業の印象を決定づける要素の一つです。応募から面接、内定連絡、そして見送り通知まで、すべての接点に“企業らしさ”が求められる時代です。採用活動のすべてのタッチポイントに誠実さと一貫性を込めるには、インナーブランディングの視点が欠かせません。
見送り対応を通じて候補者と誠実に向き合い、社内にも価値観を浸透させることが、今後の採用力を高める鍵となるのです。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)