
「誰を採ればいいか分からない」
「面接の基準が人によって違う」
といった採用の混乱は、多くの場合、“採用ターゲットが曖昧”なことが原因です。ターゲットが定まっていないままでは、求人票の内容も面接の質問も選考の合否も一貫性を欠き、せっかく採用した人が早期離職する可能性も高まります。
採用は単なる人選ではなく、「どんな仲間と組織をつくるか」を決める重要な活動です。そのためには、理想の人物像=採用ターゲットを明確にし、社内で共有することが不可欠です。本記事では、ターゲット設定の基本から、インナーブランディングとの関係までを解説します。
採用ターゲットが曖昧だと、すべてがチグハグに
採用活動においてターゲットが明確になっていないと、あらゆる場面で非効率が生まれます。求人票の文言から面接の内容、評価の基準まで、すべての判断が感覚頼りになり、結果的に「なぜこの人を採ったのか」が社内でも共有できない状態に陥ります。
以下では、ターゲットが曖昧なまま採用を進めた場合の具体的なリスクを解説します。
求人票の内容が曖昧で、刺さる人に届かない
採用ターゲットが定まっていないと、求人票の文面も“とりあえず”になりがちです。どのようなスキルを持った人に応募してほしいのか、どんな価値観を持つ人と働きたいのかが明確でないまま文章をつくっても、読み手に刺さる表現にはなりません。
結果として、応募者の質や量にばらつきが出たり、狙っていた層とまったく異なる人材ばかりが集まったりすることになります。
面接の評価基準がバラバラになり、合否の理由が不明確
面接官ごとに判断基準が異なっていると、選考の評価がブレてしまいます。ある面接官は“話しやすさ”を重視し、別の面接官は“実績重視”というように観点が違えば、候補者にとっても不信感を抱かれる原因になります。
ターゲットが明文化されていないと、「なぜこの人を落としたのか/採用したのか」が社内で共有できず、採用後の定着支援も難しくなります。
入社後のミスマッチが増え、早期離職につながる
採用ターゲットが曖昧なまま入社に至った場合、本人の期待と実際の業務やカルチャーにズレが生じやすくなります。その結果、「思っていたのと違う」「フィットしない」と感じて早期に離職してしまう可能性が高まります。
これは企業にとっても候補者にとっても大きな損失です。採用は“入口”だけでなく“その後”まで見据えた設計が必要であり、その出発点となるのがターゲット設定です。
採用ターゲットを明確にするには、言語化と共有が必要
「なんとなくフィーリングが合う人」ではなく、「自社にとって必要な人材とは何か」を具体的な言葉で表現することが、採用活動の土台になります。
明確なターゲット像があることで、求人票、面接、評価、内定後のフォローまでが一貫した設計になり、ミスマッチを防ぐことができます。以下では、採用ターゲットを定めるための実践的な方法を紹介します。
スキル・マインド・カルチャーフィットの3軸で整理する
採用ターゲットを考える際は、「できること(スキル)」「考え方(マインド)」「組織との相性(カルチャーフィット)」の3軸で人物像を整理するのが効果的です。
たとえば「自走できる」「変化に柔軟」などの行動特性を明確にし、それがどの業務やチームに求められているかを具体化することで、採用の精度が高まります。
現場と人事が一緒にペルソナをつくる
採用ターゲットの設定は、人事部門だけでなく、実際に一緒に働く現場の意見を取り入れてこそ、現実的かつ納得感のあるものになります。
現場メンバーとワークショップを行い、「こんな人と働きたい」「このチームに合う人はこういう人」といった声を集めてペルソナを言語化すれば、共通認識として活用しやすくなります。
評価項目に落とし込むことで一貫性が生まれる
設定した採用ターゲットは、面接の質問や評価シートの項目に落とし込むことで、選考の一貫性が担保されます。「主体性を重視する」と定めたなら、それを確認するための質問を設け、どう評価するかもあらかじめ定義しておくことが大切です。
採用ターゲットはただ掲げるだけでなく、プロセスに反映させることで本当の効果を発揮します。
ターゲット設定はインナーブランディングの土台

採用ターゲットを明確にすることは、単に“採る人を決める”ためだけではありません。それは同時に、「自社がどんな価値観を大切にし、どんな仲間と働きたいと思っているのか」を社内で再確認する作業でもあります。
採用ターゲットの言語化は、組織の価値観や文化の言語化と密接に関係しています。
理想の人物像を言語化することで、自社の文化が見えてくる
「こんな人が理想」という議論を繰り返すうちに、自社がどんな人を評価し、どんな働き方を大切にしているかが浮き彫りになります。これはそのまま、自社のカルチャーや価値観の再確認にもつながります。採用ターゲットの定義は、組織の“鏡”にもなるのです。
社内で価値観が共有されていないと、ターゲット像も定まらない
社内で「何を大切にしているか」がバラバラな状態では、採用ターゲットを定めることはできません。部門ごとに異なる意見が出たり、評価軸が整わなかったりするのは、組織としての価値観が共有されていない証拠です。
まずはインナーブランディングによって社内の価値観を整える必要があります。
採用ターゲットを共有できる組織は、面接でも一貫性がある
採用ターゲットを全社で共有できていれば、誰が面接に入っても同じ軸で評価・説明ができます。これにより、候補者から見ても「この会社は一貫性がある」と信頼を得やすくなります。
属人的な採用から脱却し、組織として“採用の軸”を持つことが、候補者に選ばれる企業になるための基盤です。
採用の軸がぶれない組織は、結果的に“選ばれる企業”になる
採用ターゲットの明確化は、単なる人材要件の定義ではありません。それは、企業が自社の価値観を整理し、内外に発信するプロセスそのものです。そしてこの土台となるのが、インナーブランディングです。
社内で「私たちはどんな仲間と働きたいか」「どういう価値観を大切にしているか」が共有されていれば、求人、面接、内定後フォローのすべてに一貫性が生まれます。結果として、候補者からも「この会社は信頼できる」「ここで働いてみたい」と思われる企業になるのです。
採用に迷いが生じたときこそ、自社の価値観と向き合い、内側から整える機会と捉えてみてください。インナーブランディングは、採用戦略の根幹を支える“見えない武器”です。
【弊社のインナーブランディング事例はこちらをご確認ください。】

深澤 了 Ryo Fukasawa
むすび株式会社 代表取締役
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
2002年早稲田大学商学部卒業後、山梨日日新聞社・山梨放送グループ入社。広告代理店アドブレーン社制作局配属。CMプランナー/コピーライターとしてテレビ・ラジオのCM制作を年間数百本行う。2006年パラドックス・クリエイティブ(現パラドックス)へ転職。企業、商品、採用領域のブランドの基礎固めから、VI、ネーミング、スローガン開発や広告制作まで一気通貫して行う。採用領域だけでこれまで1000社以上に関わる。2015年早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。同年むすび設立。地域ブランディングプロジェクト「まちいく事業」を立ち上げ、山梨県富士川町で開発した「甲州富士川・本菱・純米大吟醸」はロンドン、フランス、ミラノで6度金賞受賞。制作者としての実績はFCC(福岡コピーライターズクラブ)賞、日本BtoB広告賞金賞、山梨広告賞協会賞など。雑誌・書籍掲載、連載多数。著書は「無名✕中小企業でもほしい人材を獲得できる採用ブランディング」(幻冬舎)、「知名度が低くても“光る人材“が集まる 採用ブランディング完全版」(WAVE出版)。「どんな会社でもできるインナーブランディング」(セルバ出版)。「人が集まる中小企業の経営者が実践しているすごい戦略 採用ブランディング」(WAVE出版)